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生温く強い風が吹いたその夜、城は何千という敵軍に囲まれあっという間に攻め込まれた。
一早く気付いた夜回りの環が、城主に報告したものの
城主である陣内は腰元達を裏から避難させ自らは城を守ると退く事はなかった。
緋杜もまたしかりである。
城下町には雷蔵が城下の人間を避難させに向かい、寸でのところで腰元や町人達を全て無事に逃すことが出来た。
影千代は家臣や兵を率いて攻め込んで来た軍勢を迎え討ち
環も炎にまかれた城内を消火剤をまき散らしながら家臣を率いて敵兵を討っていた。

一人、また一人と敵も味方も倒れてゆく。

緋杜は自らも剣を振るい敵を斬り倒していく。刀が油で斬れなくなるほどに…
何十人もの屍を踏み越えて外に飛び出るが、そこはもう死骸と火の海。
現実と思えぬ光景に一気に戦意を失った。

周りは敵だらけである。戦意をそこで喪失すれば命など一瞬で奪われる。

「緋杜様!!!」

駆け寄ってくる影千代の声に我を取り戻す。

「緋杜様、こちらです!早く避難場所へ!環が陣内様をそちらに誘導しておりますゆえ!!」

「影千代…生きていたのか…私はてっきり」

「緋杜様、約束した筈です。俺は貴方の盾になるまで死にはしない」

フラフラと血に塗れた重い刀を引きずる緋杜を真っ直ぐな瞳が見つめている。
その目はいつもの影千代であり、幼い頃から何ら変わらずそこにあった。

「お前は強いな。影千代…私もお前のように強く生きねば」

「貴方様は生きなければならない。何があっても強く生きて下さい。必ず俺たちがお守りいたします」

この不利な状況下、地獄のような惨劇の中
不思議とこの男の言葉の言葉は素直に信じる事ができる。
自分は生きるのだ。城は落ちようと、陣内の血を受け継ぐたった一人の継承者である事に違いない。
今諦めてはいけない。生き残った家臣や腰元、そして城下の町民達のために…

緋杜は重い体を必死に引きずり、炎の壁の中を影千代に続いた。

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