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城の中には幾つかの布団部屋がある。その一角には
物置き部屋もあり、滅多に人は出入りしないほこり臭く暗い場所ゆえ
城内で運命の出会いを遂げた男女が人目を忍んで逢い引きする場となっていた。
女好きの雷蔵は女中たちからそんな噂を聞きつけて、ちゃっかり物置き部屋を逢い引きに利用していたのだった。

「お静ちゃん、もうこの城には慣れたかい?」

「ええ、雷蔵さんのお陰よ。毎日こうして会ってくれるし…」

「君みたいに可愛い子となら、毎日だって会うさ」

「…雷蔵様ったら…」

「お静ちゃん…」

見ているこちらが恥ずかしくなる程甘過ぎる雰囲気である。
そっとお静が自らの帯に手をかけはじめ
状況はいよいよお子様閲覧禁止令を出さなければいけないだろうかというところまで差し掛かった時
埃を舞い上がらせながら襖が豪快に開いた。

「それ以上の破廉恥な行為、この緋杜が許さんぞ!!」

「緋杜様、どうか落ち着いて下さいませ」
「すみません雷蔵。緋杜様にバレちゃいました…はは…」

「げげぇっ!!お前ら…わ、若様まで…」
「きゃあああ!!」

雷蔵とお静は驚きと焦りでパニックである。
まさか若様に逢い引きの現場を見られるなんて。
良くて百叩き。悪くて打ち首。
お静に至っては顔面蒼白で泣きじゃくる始末である。

「貴様ら恥を知れ!双方とも打ち首だ!!」

「ちょ、ちょっと待てよ!!
今回は俺が手ぇ出した事だ。だから俺は打ち首になったってかまわねえが…まさかお静ちゃんまで…」

「当たり前だ!女子の身でなんと破廉恥な!」

その言葉に驚き、お静は緋杜にすがりついた。

「緋杜様!どうかお許し下さい!私が実家に仕送りをしなければ、病の弟が死んでしまうんです!どうか!」

「…それなら何故御庭番などと逢瀬を重ねた?全て自己責任だ…観念せい」

お静の事情を聞いて緋杜は揺らいだが、打首と言ってしまった以上すぐに咎めを変える事などできる筈もない。
泣き崩れるお静に背を向け緋杜は父、陣内に報告の為廊下を歩きだした。
子猫のように泣いていた愛らしい声が一瞬止まった。
緋杜は全身が総毛立つような殺気を感じ、振り返る。


ダン!!!
という大きな音を立て、お静は想像も出来ないスピードで緋杜に踏み込んだ。

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