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雷蔵、影千代、環の三人が就御庭番に就任してから5ヶ月が過ぎようとしていた。
後見人という立場と生活に緋杜も慣れてきた頃、
緋杜のプライドを地底に沈ませるような事件が起こった。

雷蔵が夕食時になると決まって御庭番の住居区域から姿を消すのだ。
夕食の時間は四人揃って一つの部屋で食事をとるのだが、雷蔵だけ姿を現さない日が何日も続いていた。
規律や協調性に厳しい緋杜にとっては我慢ならない行動であったが
折角互いを受け入れ合う姿勢をとり始めてきた三人に水を注してはいけないと堪えていた。
しかし気にはなる。
夕食時にふらりと出ていき、深夜にそっと寝室に戻る。
昼間は何くわぬ顔で見廻りか鍛錬に勤しみ
また日が落ちると住居区域を抜け出して行く…
影千代も環も、雷蔵の行動を微塵も干渉しない為問い詰める事もない。

一度だけ深夜の見廻りを終えた環と鉢合わせした雷蔵が
「毎晩どちらに?」
と聞かれたが
「ちょっとヤボ用にな」
と言葉を濁しただけである。
環もそれ以来何も聞かない。
布団の中で聞き耳をたてていた緋杜は環が食い下がらない事に内心やきもきしていた。



雷蔵が現れなくなって17日目の夕食時。
緋杜はとうとう我慢ならなくなった。

「お前達は共に三人御庭番としてこの城を守らねばいかんのだぞ」

緋杜の苛立った様子に、影千代が反応した。
「どうかなさいましたか?」

「一人欠けていて何故平気な顔で飯が食えるのか不思議でならんのだ」
目前に置かれた手つかずの膳を見据える。
食事は出されたまま綺麗にまた下げられるのだ。
「勿体無いとも思わんか?」

斜め前で食事をしていた環がおもむろに雷蔵の食事に手を伸ばす。
「それじゃあ今日からこれは僕がいただきますよ」


「うつけ者!!そのようなことを言っているのではない!!」

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