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戦のような騒々しさは三人の活躍により半時も経たぬうちに一掃され
負傷し倒れた浪人達は御縄を頂戴する事となった。
これに一番喜んだのは城主の陣内である。
いや頼もしい。さすが我が城の御庭番だと三人を称え満悦の様子。
こんな騒ぎもまた一興と、皆更に高揚した心持で酒瓶を抱えあげ
宴は取り止める事無く夜空が白ける時刻まで盛大に行われたのであった。
「父上、お話があります」

緋杜が陣内に己の内に湧いた決意を話し出したのは
酔いつぶれる家臣も出てきた為に、宴もそろそろお開きになろうかという頃である。

「今回の事件、何を隠そう首謀者はこの私でございます」

「そのようなこと、聞かずとも承知じゃ。けしかけたのは儂なのだからな」

「いえ…私はあやつらを試す目的ではなく…あわよくばこの城から追い出す所存でありました…」

そう告げ、俯き押し黙る緋杜の心中を陣内は察していた。
緋杜からすれば、自分の愛すべき城、家臣、そして尊敬する父。
その世界に御庭番という余所者が土足で侵入してきたのだ。
そしてその余所者に城や城主の生き死にが懸かるとなれば、不満を覚えるのは仕方のない事である。三人に対し悪心を抱いても不思議ではない。
それでなくとも頑固で一途な緋杜の気性は誰よりも知っている。
この気難しい男の気持ちを動かすにはこの手しかない。

「これ、三人とも!ここへ集まれ!話がある!」
陣内はやれやれと腰を上げ、雷蔵、影千代、環を呼び寄せた。

「よいか、三人とも。今からここにおる緋杜がおまえたちのお目付け役じゃ。
本日からこの緋杜がお前たちと共に寝食を共にし、真に我が城の御庭番にふさわしいかを判断する。半年後、緋杜からおまえ達の評価を聞き
事と次第によっては御庭番を解散する事とした。よいな?」

「ええっ!?」
「そりゃどういうこった!!」
「何故今更…!?」
「ち、父上お待ち下さい!!」
あまりに突飛な陣内からの提案に、雷蔵、影千代、環に加え緋杜までも驚愕の声を上げた。

「五月蝿い五月蝿い!もう決めた事じゃ。うぬらの意見は聞かん。大人しく従え!」

「・・・・・・・・・」

城主に黙れと言われればこれ以上の意見も言えず、四人は黙って頷くしかない。
親交を深める為と四人は早々に宿舎へ戻され
まだどんちゃん騒ぎをしている宴の場を名残惜しくも退散することになってしまった。
緋杜はあのようなことを白状しなければと後悔するも、時すでに遅し。
三人は三人で何故こうした事態になってしまったのか検討もつかない。

宿舎に着いて早々
四人の気まずさに耐えかねて環はそそくさと風呂へ立ち去り、
影千代は厠へ行くと出て行ったきり帰って来ず、
雷蔵はとにかく寝てしまおうと布団を被ってしまった。
朝靄のかかった庭を眺めながら、取り残された緋杜は
一人考えがたい違和感を身の内に感じていた。

影千代は昔から知った顔ではあったが、思えば緋杜が元服してから互いの事を話したことなどなかった。あれほど剣の腕を磨き、何故わざわざ自分から御庭番に就こうと思い立ったのか…
始末係として数年城に仕えていた環にしても、人を殺す能力はあれど
人を護る力があるとは思いもしなかった。心すら凍りついた殺人兵器と思っていた者が
まさか身を盾に自分を護ろうとは驚くばかりである。
そしてあの赤毛の男、雷蔵。ただの風来坊ではない。
考えや言動は緋杜からすれば粗暴で品が無いと見える。しかしあの大きな鎖鎌を自在に操れるのはこの城内でも間違いなく雷蔵唯一人。抜け忍というだけあって身のこなしも常人の敵うものではなかった。

父があの三人を御庭番に任命した理由が少し理解できた気がする。
そして自らもあの三人それぞれを知っていきたいと思った。
正直な胸の内を言えば、緋杜一人では城主はおろか家臣達すら護ることはできない。
どれだけ大事に想っていようとも、力が追いつかなければそこまでだ。
緋杜は自分を上回る力を持った者、誰より信頼できる者を必要としていたのだ。


「…あと半年、あやつらに懸けてみるか…」

まずは何より彼等のことを知らなければいけない。
寝食を共にしたところで、現状のように逃げられてしまうのがオチである。
こちらも策を練って各々を試し見聞きせねばならない。
緋杜は拳を固く握り、ゆっくりと廊下を歩き出した。


…続く

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