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宴がいよいよ盛り上がってきたのは、
大きな月が城の真上に差し掛かる時刻である。

酒好きの雷蔵は腰元と酒瓶に囲まれて、すっかり出来上がっていた。
影千代も酒で頬を赤らめながら、宴の雰囲気に機嫌が良くなっている。
環は酒を飲むことはなく、用意された食事を嬉しそうにほおばっていた。
城主を交えて芸や踊りのどんちゃん騒ぎなど、他の国では考えられない状態である。
しかしこの陣内透衛門という男は、城に仕える者達とこのように宴を楽しむ事が何より好きなのだ。
自分に仕える者や、城下の人間達との隔たりを作り
品格と威厳だけを誇示する事だけが一国の最高権力者の在り方ではない。
人間は人間同士、同じ土俵で意志や思考を直接伝達し合うべきなのだと考えていた。
若い頃は家老から「立場を考えるように」と散々説教を食らったが、
一国の城主になった今も、考えを変えようとはしない。
そんな城主の在り方には賛否両論が激しく、命を狙おうとする者まで出てきたため
危機を感じた緋杜が御庭番衆を城に置こうと言い出したのだった。

その頃、緋杜は城の裏門を門番達に開かせていた。

「緋杜様、このような事はおやめください!」
「危のうございます。どうか考え直して下され!」

「うるさい!父上の許可は得ている。早く門を開けろ!
お前たちの命は保障する。しかし多少の怪我は我慢せい。城のためだ!」

「私たちのことより、緋杜様でございます!」
「緋杜様の首を討ち取れば全員に千両などと…。浪人どもは鵜呑みにしておりますぞ!」

「その代わり、城主は勿論のこと城の者を殺せば報酬はビタ一文出さん。
…そう伝えてあるな?」

門の外には百を超える浪人達が、早く門を開けろと怒号を飛ばしていた。
緋杜が門番を使い集めた浪人である。

「私は広間に戻り腰元達に父上を安全な場所へ誘導させる。後は頼んだぞ!」
そう言うと家臣の返事を待つ事なく、緋杜は城の奥へと走り去った。
若君の命令である。逆らえば打ち首だと脅されていた門番たちは、渋々裏門を開け放ち
浪人たちを大広間へと向かわせた。



「父上!!反逆者でございますす!早うお逃げ下さい!!」



真っ青になって広間に転がり込んできた緋杜に驚き、悲鳴をあげたのは腰元達である。
尋常ではない緋杜の様子と、広間へ向かってくる浪人たちの足音や雄叫びに
家臣達が刀を構え応戦の準備につき始めると、陣内は一層楽しそうに笑みを浮かべた。
襖が無作法に蹴破られると、大勢の浪人が広間に次々と雪崩れ込み
あっと言う間に戦場のような有り様である。
陣内も腰元達も、逃げる間などなく一瞬で囲まれてしまった。
予想以上に門を開けるタイミングが早かった。緋杜の瞳に焦りが見える。

「おいおい、綺麗なねぇちゃんがいっぱいじゃねえか!」
「若様の首をいただく前に、こっちで楽しませてもらおうぜ!」
「殺さなきゃ何したってイイんだもんなぁ!!」

品性の欠片も無い野獣のような男達である。女が目に入ればそちらに手が出るのは当然の事。
逃げ遅れた若い腰元が腕を掴まれ羽交い絞めにされてしまった。

「いやぁ!!離してください!!」
「おお!こいつは上玉だぜ!もらって帰るとしようか!」
「やっぱ城に仕える女ってのは外の女と違うもんだな!」

そう言って腰元の顎を掴んだ浪人の腕に一本の線が入った。

「あ?」

瞬間、鮮血が噴水のように噴出した。

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